特許 令和7年(行ケ)第10049号「マンコンベヤ」(知的財産高等裁判所 令和8年1月27日)
【事件概要】
本願発明は、人を搬送するためのステップの走行速度を歩行速度に応じて制御するエスカレータ等のマンコンベヤに関するものである。本願発明は、引用発明及び周知技術に基づき想到容易であるとして、進歩性が欠如する旨判断した審決を、知財高裁が支持した事例である。
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【主な争点】
引用発明が特定の構成で既に課題を解決していることが、当該構成を周知技術(甲2構成)に置換する動機付けを否定する根拠となり得るか。
【結論】
周知技術である甲2構成は、人の歩行速度に応じた制御を行うために、甲2構成に記載された第1人検出部と第2人検出部を設けて人の歩行速度を演算するとの作用・機能を有しているのであるから、本願発明と同一の課題解決のための手段となり得る。そうすると、本願発明と引用発明との相違点1及び2に係る構成の差異を、この甲2構成の周知技術で代替することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものといえる。
加えて、引用発明と甲2構成の周知技術とは、同一の課題解決原理に属し、作用機能も同一のものであるから、上記本願発明と引用発明との相違点1及び2に係る構成の差異を、甲2構成の周知技術で埋めることについての動機付けも存在する。
そうすると、本願発明は、引用発明から当業者において容易に想到し得たものであるということができ、本件審決が、本願発明に進歩性が欠如する旨判断したことに誤りはないというべきである。
【コメント】
原告は、引用発明が「マット」という手段によって既に課題解決している以上、これをあえて別の手段(2点センサ)に置き換える必要はなく、動機付けがない旨主張した。
これに対し裁判所は、置換対象となる周知技術が、引用発明と技術分野、課題、作用・機能において共通している以上、当業者がこれを選択することは通常の創作能力の発揮である旨判断した。その上で、「異なる別の解決手段によって既に解決しているか否かは動機付けの有無とは関係しない」との判断を示した。
実務においては、引用発明の構成変更を争う際、現状で機能しているから変える必要がない等という消極的な理由だけでは動機付けを否定するには不十分であり、当該構成を変更することによる不都合や、技術的な困難性等を具体的に主張する必要がある点に留意する必要がある。